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コラム
2021/11/14
世界トップレベルの祭典「BCI Award 2021」:Top2の研究を解説。

 

NeurotechJP では、Neurotech 業界で活躍するスタートアップのコラム記事業界の分析レポートなど、Neurotechnology という技術を使ってどのようにビジネス応用するか、という面で多くのコンテンツを提供してきた。

しかしながら、それらビジネス応用の根本には技術の発展が必要不可欠である。

BCI Awardは、世界で最も革新的な BCI(Brain-Computer Interface)の研究・プロジェクトを決めるコンテストであり、毎年 12 個のノミネートされたプロジェクトから Top3 の研究を決める。

10 月中旬に結果が発表されたBCI Award 2021では、革新的な技術研究が受賞された。

今回の記事では、今年の BCI Award の Top2 の研究・プロジェクトを分かりやすく説明していく。

 

BCI Award とは

BCI Award は、毎年開催され今回で 12 回目を迎える。そのスポンサー企業の範囲は幅広く、数十年前から BCI を提供し続けるg.tecを筆頭に、Neurotech の研究メディアIEEE Brain、Neurotech 業界最大のコミュニティNeurotechXなどに加え、日本からも Riken のAIP(Advanced Intelligence Project)がスポンサーをしている。

ノミネートされた 12 個の研究プロジェクトは、大学教授や前年度優勝者など計 7 人の審査員によって順位付けされ、1 位の研究チームは$3000 の優勝金がもらえる。

 

1 位: Synchron 社の BCI "Stentrode"

今回 1 位を受賞したのは、Synchron社の研究チームだ。侵襲型 BCI スタートアップ5選でも紹介したが、同社は Neuralink の競合と注目されている侵襲型 BCI 企業だ。

Synchron のコア技術であるStentrodeは、血管の内側から脳の信号を伝達することができる完全埋め込み型の麻痺患者用の医療デバイスである。

 

注目すべき点は、侵襲性が低い上に、複数のセンサーで脳の活動を捉えることができる点である。

Synchron の Stentrode を埋め込むには約 2 時間ほどの手術を必要とするが、首の血管からデバイスを入れ、血管内で脳の位置へとデバイスを移動させるので、脳の外科手術を必要としない。最小限に手術を抑えた侵襲性の低さは患者に安心感を与えると共に、多くの人にデバイスを提供することを可能とする。同社は今年の 7 月に、Stentrode の臨床試験利用の FDA 許可を侵襲型 BCI を提供する企業の中で初めて取得した。

 

また Stentrode は患者の意図した動きに関わる脳の活動を捉えるよう設計されており、デバイスにある多数のセンサーが脳の複数の位置の活動を記録することができる。

専用のトランスミッターを胸部に装着すれば、Stentrode から取得した脳活動データをコンピュータに送信し専用のソフトウェアプラットフォームに繋げることができる。トレーニングを積み重ねることで、念じただけでメッセージをタイプすることに加え、ショッピングやインターネットバンキングなどの日常タスクも不便なく行える。

Synchron youtube 動画: Synchron の受賞研究紹介

 

2 位: 単語と文章解読のための直接話法による BCI

医学分野含め神経科学分野ではトップレベルとも言われる UCSF。同大学で神経外科手術の教授であるEdward Chang率いるChang Labのチームが、2 位を受賞した。

彼らが行ったのは、構音障害や重度の麻痺症状を持つ人が滑らかなコミュニケーションを取り戻すよう、意図した思考をリアルタイムで解読できる侵襲型 BCI の研究である。

 

この研究では、声道を操る脳の領域に電極を埋め込み、ディスプレイに表示された質問に対して被験者に回答を喋るように試みてもらう。その際の脳波を取得し、信号処理アルゴリズムに加え、発話検出・単語分類・言語モデルなど複数のアルゴリズムを組み合わせることで、リアルタイムで単語と文を翻訳することが可能となった。

 

注目すべき点は、発話を試みている脳活動から単語のみならず文章をも解読できる点である。

この種の研究では、実際の発話した際の脳活動から言葉や文を解読する研究、障害のある方が発話を試みようとしている際の脳活動から解読する研究の 2 パターンに分けて考えることが多いが、

彼らの今回の研究は後者の研究パターンであり、その中でも従来は難しいとされていた「文章の解読」に、世界で初めて高い精度で成功した。

 

彼らのアルゴリズムは 50 個の単語を区別するよう学習され、1000 個以上の文を作成することができる。

また、1 分間に 15 個の単語を平均74%の精度で解読することができたという。

Chang-lab youtube 動画: Chang Lab の受賞研究紹介

 

また、同ラボでは、実際に発話している際の脳活動から単語や文を解読するパターンの研究や、解読された思考を文字ではなく音声で表現するパターンの研究も行われており、

同ラボは今回の BCI Award だけでなく、Facebook(現 Meta 社)と共同研究をしていたことでも注目を浴びている。

Chang-lab youtube 動画: Chang Lab の別の研究紹介

 

さいごに

今回の記事では、BCI Award 2021 で受賞された 2 つの研究を紹介した。

1 位、2 位の研究はどちらも侵襲型 BCI の研究であり、脳活動から思考を解読する技術において革新的な発展が行われている。

3 位受賞の研究チームは、論文が一般公開されていない関係上今回紹介することは出来なかったが、EEG(脳波)から指の動きを分類するという非侵襲型の BCI を研究していた。

 

Synchron 社のように、研究ベースの技術発展が我々消費者にとって Neurotech をより実現性の高いものとする。

今後も、このような最新の研究に注目していきたい。

ライター

Hayato Waki